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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)462号 判決

甲・乙事件原告(以下「原告」という。)

大木吉春

柏崎安一

甲・乙・丙事件原告(以下「原告」という。)

茅野広治

橋本作次

松本修

甲・乙事件原告(以下「原告」という。)

村井嘉治

乙事件原告(以下「原告」という。)

川端一也

松本勇

右訴訟代理人弁護士

河村武信

蒲田豊彦

甲・乙・丙事件被告(以下「被告」という。)

株式会社商大八戸ノ里ドライビングスクール

右代表者代表取締役

雄谷治男

右訴訟代理人弁護士

香月不二夫

平田薫

主文

一  被告は、原告大木吉春に対し、金三五〇〇円及びこれに対する平成三年二月一日から、同柏崎安一に対し、金七万一一七七円及び内金二万二一一一円に対する同日から、内金四万九〇六六円に対する平成五年五月二六日から、同茅野広治に対し、金八〇〇〇円及びこれに対する平成三年二月一日から、同橋本作次に対し、金三〇〇〇円及びこれに対する同日から、同松本修に対し、金八万〇六一四円及び内金三万〇二八九円に対する同日から、内金五万〇三二五円に対する平成五年五月二六日から各支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告大木吉春、同柏崎安一、同茅野広治、同橋本作治、同松本修のその余の請求及び同村井嘉治、同川端一也、同松本勇の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告大木吉春に生じた費用の二五〇分の一、同柏崎安一に生じた費用の一〇〇分の一〇、同茅野広治に生じた費用の一〇〇〇分の六、同橋本作次に生じた費用の一〇〇〇分の三、同松本修に生じた費用の一〇〇〇分の八及び被告に生じた費用の一〇〇分の三を被告の負担とし、右原告らに生じたその余の費用を右原告ら各自の負担とし、原告村井嘉治、同川端一也、同松本勇に生じた費用を右原告ら各自の負担とし、被告に生じたその余の費用を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一(甲事件)

被告は、原告大木吉春(以下「原告大木」という。)に対し、金一六万八五四〇円、同柏崎安一(以下「原告柏崎」という。)に対し、金一二万〇八八七円、同茅野広治(以下「原告茅野」という。)に対し、金一六万一九六八円、同橋本作次(以下「原告橋本」という。)に対し、金一二万二四四〇円、同松本修に対し、金二九万三八五八円、同村井嘉治(以下「原告村井」という。)に対し、金一五万七八七二円及び右各金員に対する平成三年二月一日から各支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二(乙事件)

被告は、原告大木に対し、金六七万八一九七円、同柏崎に対し、金五四万四五三〇円、同茅野に対し、金六七万六一五六円、同橋本に対し、金六〇万一二六四円、同松本修に対し、金五五万二二五三円、同村井に対し、金五六万九六六〇円、同川端一也(以下「原告川端」という。)に対し、金二万七九〇二円、同松本勇に対し、金二万五七四〇円及び右各金員に対する平成五年五月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三(丙事件)

被告は、原告茅野に対し、金三六万四五一九円、同橋本に対し、金三六万〇六三一円、同松本修に対し、金一七万七二一〇円及び右各金員に対する平成七年二月四日から各支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  当事者間に争いのない事実

1(当事者)

(一)  被告は、自動車教習所を経営する株式会社であり、原告らはいずれも、被告との間の雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)に基づき、自動車運転技能指導員(以下「技能指導員」という。)として被告の経営する自動車学校(以下「本件自動車学校」という。)で就労している(ただし、原告村井は、平成四年一二月一八日、被告を定年退職した。)。

なお、原告大木、同茅野、同橋本、同村井は、学校法人谷岡学園(以下「谷岡学園」という。)の従業員であったが、昭和四〇年以来被告に出向して勤務を始め、現在に至っている。

(二)  原告川端、同松本勇は、いずれも商大八戸ノ里ドライビングスクール職員組合(以下「職員組合」という。)に所属し、その余の原告六名は、全国一般労働組合大阪府本部全自動車教習所労働組合商大自動車教習所分会(以下「分会」という。平成三年二月一七日、全労連全国一般労働組合大阪府本部大阪自動車教習所労働組合商大分会と改称)に所属する。

2(時間短縮日の振替と就労による時間外手当の支給(第一類型)―乙事件

(一)  被告は、昭和四七年一〇月一六日ころ、隔週の月曜日を休日(以下「時短休日」という。)と定めていた。

(二)  被告が、昭和四七年一月三〇日、職員組合との間で締結した確認書及び昭和五二年二月二一日、分会との間で締結した協定書中には、「特定休日(時短休日)が祭日と重なった場合、特定休日(時短休日)の振替えは行わないものとする。」旨の条項が定められていた。

(三)  被告は、右の定めに反し、少なくとも、昭和五五年以降昭和六三年ころまでの間、原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修、同村井に対し、時短休日である月曜日が祝祭日である場合には、翌火曜日(以下「時短振替日」という。)を休日として出勤者に休日手当を支給する扱いをしていた。

(四)  しかし、被告は、昭和六三年一〇月ころ、右取扱いが、労働協約、就業規則に反する誤った取扱いであるとして、以後、このような場合に休日手当を支給しなかった。

(五)  原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修、同村井は、未払賃金計算表(乙事件)第一類型各原告欄記載の日(時短振替日)に出勤したが、被告はこれを通常の出勤として取り扱い、休日手当を支払わなかった。

(六)  右各原告について、前記の出勤日に休日手当が支給されると仮定した場合の金額は、別紙(略、以下全て同じ)未払賃金額一覧表乙事件第1類型未払賃金欄記載の金額である。

3 教習生の欠席などによる非教習と能率給の支給(第二類型)―乙・丙事件

(一)  原告柏崎、同松本修は、教習生を一時限(五〇分単位)で練習車に乗せて教習を行い、一時限単位で能率給が支給されていた。

(二)(乙事件)

(1) 原告柏崎、同松本修は、別紙未払賃金計算表(乙事件)第2類型の各原告欄記載の日の各時限について、教習を行わなかったところ、被告は右各時限に対応する能率手当を支払わなかった。

(2) 原告柏崎に対し、右各時限について、能率手当が支払われると仮定した場合の金額は、ベースアップに係る賃金清算分に対応する能率給支払請求額を除く部分中、平成元年一月分から平成四年三月分及び同年一二月分の金額は、同表同類型右原告欄記載のとおりであり、平成四年四月分以降の金額は、同年四月分一〇九八円、同年五月分四五八円、同年六月分三六六円、同年七月分及び八月分各七三二円、同年九月分及び一〇月分各二一九六円、同年一一月分九一六円を下回らない。

(3) 原告松本修に対し、右各時限について、能率手当が支払われると仮定した場合の金額は、ベースアップに係る賃金清算分に対応する能率給支払請求額を除く部分中、平成元年一月分から平成四年三月分までの金額は、同表同類型右原告欄記載のとおりであり、平成四年四月分以降の金額は、同年四月分一三八九円、同年五月分三七〇円、同年七月分七四〇円、同年八月分二二二〇円、同年九月分三七〇円、同年一〇月分四六三円、同年一一月分一一一〇円、同年一二月分一四八〇円及び同月超過勤務分九二六円を下回らない。

(三)(丙事件)

原告松本修は、平成四年一二月一七日から平成六年一二月三日までの間、別紙未払賃金計算表(丙事件)第2類型松本修欄記載の日の各時限について、教習を行わなかったところ、被告は、右各時限に対応する能率手当を支払わなかった。

右各時限について、能率手当が支払われると仮定した場合の金額は、同表同類型右原告欄記載のとおり、計三万六九八六円となる(右金額については、被告が明らかに争わないので自白したものとみなす)。

4 法要等の特別休暇と賃金の支払(第三類型)―乙事件

(一)  原告大木が平成四年一一月七日及び同月九日、原告茅野が同年一〇月六日、各欠勤した。

(二)  被告は、右各欠勤に対する賃金控除をしたが、その額は、原告大木について二万九四八八円、同茅野について一万五一一二円を下回らない。

5 休日及び振替休日と賃金不払(第四類型)―甲・乙・丙事件

(一)  被告は、元旦、成人の日、建国記念の日、春分の日、天皇誕生日、憲法記念日、子供の日、敬老の日、秋分の日、体育の日、文化の日、勤労感謝の日の一二日の祝日(以下「一二の祝日」という。)について、国民の祝日に関する法律(以下「祝日法」という。)が昭和四七年に改正され、一二の祝日と日曜日が重なった場合にその翌日の月曜日(以下「振替休日」という。)が休日と定められた後、振替休日を休日として取り扱い、原告らが欠勤しても、賃金カットをせず、原告らが出勤した場合には休日手当を支払う取扱いをしていた。

(二)  被告は、平成元年一月に右取扱いを改め、振替休日に出勤した原告らに対し、休日手当を支払わず、欠勤した原告らに対し、同日分の賃金カットを行った。

(三)  原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修、同村井について、被告は、別紙未払賃金計算表(甲事件)第4類型、同表(乙事件)第4類型、同表(丙事件)第4類型の各原告欄記載の振替休日及び右一二日の祝日以外の祝日法上の祝日であるみどりの日及び祝日法上の休日である五月四日(以下「祝日法上の休日)という。)について、出勤日として扱い、右各日に出勤した原告に対し休日手当を支払わず、右各日に欠勤した原告に対し、同欄記載の賃金カットを行い、夏季一時金の算定について、不就労とする減額評価を加えた。

(四)  被告が(三)の各日を休日として取り扱い、出勤した原告に対し、休日手当を支払、欠勤した原告に対し賃金カットをせず、その賃金の全額を支払うべきものと仮定した場合の金額は、以下のとおりとなる。

(1)(甲事件)

原告大木、同茅野、同橋本、同村井については、別紙未払賃金計算表(甲事件)第4類型の各原告欄記載の金額であり、同柏崎、同松本修については、同表第4類型の各原告欄記載の金額を下回らない。

(2)(乙事件)

原告大木(平成四年四月二九日及び同年五月四日の不就労による賃金カット分を除く。)、同柏崎(同)、同茅野(同)、同橋本(同)、同松本修(同)、同村井については、未払賃金計算表(乙事件)第4類型の各原告欄記載の金額であり、原告村井を除く右原告四名の平成四年四月二九日及び同年五月四日の不就労による賃金カット分は、原告大木が各一万四七四四円、同柏崎が各一万一一二八円、同茅野が各一万五一一二円、同橋本が各一万四九八四円、同松本修が各一万一二八〇円を下回らない。

(3)(丙事件)

原告茅野、同橋本、同松本修については、未払賃金計算表(丙事件)第4類型の各原告欄記載の金額である(右金額については、被告が明らかに争わないので、自白したものとみなす。)。

6 年次有給休暇取得制度と賃金の不払(第五類型)―甲・乙事件

(一)  被告は、平成元年二月六日、原告ら従業員に対し、「有給休暇の与え方」と題する文書を交付し、同日以降平成四年ころまでの間、各教習日について、従業員の年次有給休暇取得による欠勤を許容する人数の上限を平日五名、土曜日及び日曜日従業員二名とする取扱いを明らかにした(その後、土曜日及び日曜日を四名に増加させた)。

(二)(甲事件)

原告大木、同松本修が別紙未払賃金計算表(甲事件)第5類型の各原告欄記載の日に年次有給休暇を請求し、就労しなかったが、被告は、時季変更権を行使したとして、欠勤を理由に同欄記載の額の賃金及び年末一時金をカットして支払わなかった。

(三)(乙事件)

原告大木、同柏崎、同茅野、同松本修、同川端、同松本勇は同表(乙事件)第5類型の各原告欄記載の日に年次有給休暇を請求して、就労しなかったが、被告は、時季変更権を行使したとして、欠勤を理由に同欄記載の額の賃金カット及び一時金につき減額評価をした。

7 メーデーの特別休暇の一方的廃止と賃金不払(第六類型)―甲・乙事件

(一)  被告は、昭和四四年以降、五月一日(メーデー)に出勤した従業員に対し、時間外手当を支払、出勤しない従業員に対しても、欠勤扱いしない取扱いをしていたが、昭和六三年四月から五月一日に出勤しない者を欠勤として取り扱った。

(二)(甲事件)

原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修が平成元年五月一日及び同二年五月一日に欠勤し、被告が右欠勤を理由に別紙未払賃金計算表(甲事件)第6類型の各原告欄記載の金額の賃金及び年末一時金をカットして、支払わなかった。

(三)(乙事件)

原告柏崎、同松本修は、平成三年五月一日及び同四年五月一日に欠勤したが、被告は、右欠勤を理由に、原告柏崎について、平成三年五月一日の欠勤につき一万〇五〇四円の賃金カットを、平成四年五月一日の欠勤につき一万一一二八円を下回らない額の賃金カットを行い、平成四年度夏季一時金につき二万七四三四円の減価(ママ)評価を行い、原告松本修について平成三年五月一日の欠勤につき一万一二八〇円の賃金カットを、平成四年五月一日の欠勤につき一万一二八〇円を下回らない額の賃金カットを、平成四年度夏季一時金につき二万七七六五円の減価(ママ)評価を行い、これらの金額を支払わなかった。

8 夏季及び年末年始の特別休暇の一方的変更と賃金不払(第七類型)―甲・乙・丙事件

(一)  被告は、原告大木、同茅野、同橋本、同村井について、昭和四〇年ころから、事実上、一二月二五日から翌年一月九日までを休日(ただし、一二月二五日及び一月九日は半日休暇)として取り扱っていたが、遅くとも、平成元年一二月以降、これを改め、一二月二六日から翌月の一月八日までを休日(一二月二五日、一月八日は半日休)として取り扱うことにした。

(二)(甲事件)

右原告ら四名が平成元年一二月二五日(被告主張の勤務時間三時間)、同二年一月八日(同四時間)、同月九日(同六時間)に欠勤し、被告は右欠勤を理由に少なくとも、別紙未払賃金計算表(甲事件)第7類型の各原告欄記載の額の賃金(同月八、九日各四時間分)をカットして、右賃金を支払わなかった。

(三)(乙事件)

(1) 被告は、右原告ら四名について、平成二年八月一三日から同月一八日までの六日間を夏季特別休暇として取扱い、右原告ら四名は、同月二〇日に出勤したが、被告は、右原告ら四名に対し、右出勤日に対し休日出勤手当を支払わなかった。

同日に休日出勤手当を支給すべきものと仮定した場合のその金額は、別紙未払賃金計算表(乙事件)第7類型の各原告欄記載の金額である。

(2) 右原告ら四名は、平成三年一月八日、九日、平成四年一月八日、九日に欠勤し、被告は、右欠勤を理由に、別紙未払賃金計算表(乙事件)第7類型の各原告欄記載の額の賃金をカットして、右賃金を支払わなかった。

(四)  丙事件

原告茅野、同橋本は、平成五年一月八日、九日、平成六年一月八日及び一〇日に欠勤し、被告は、右欠勤を理由に原告に対し、別紙未払賃金計算表(丙事件)第7類型の各原告欄記載の額の賃金をカットして、右賃金を支払わなかった(右カット額については、被告が明らかに争わないので自白したものとみなす)。

二  原告の主張

1  第一類型―乙事件

(一) 前記のように、被告は、昭和五五年以降昭和六三年ころまでの間、原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修、同村井に対し、時短休日である月曜日が祝祭日である場合には、翌火曜日(時短振替日)を休日とし、出勤者には休日手当を支給する扱いをしており、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となった。

(二) したがって、右原告らの一2の各時短振替日の出勤について、被告は、休日手当を支払うべきである。

よって、右原告らは、被告に対し、本件雇用契約に基づき、別紙未払賃金額一覧表乙事件第1類型未払賃金欄記載の未払賃金、付加金欄記載の付加金及びこれに対する弁済期の後である平成五年五月二六日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  第二類型―乙・丙事件

(一) 被告と分会は、昭和五二年二月二一日、労働協約(〈証拠略〉)を締結し、右協約第四項において、「教習空き時間について」と題して「教習の空き時間の発生については自動車教習所として固定的条件で避け難い現象であるが専門職は専門職業務しか就業しないという狭い服務態度は許さな(ママ)いのですべての業務について、時と場所をいとうことなく教習施設および環境の維持ならびに営業全般にわたって積極的に努めるものとし、会社は提供される労働に空白が生じないよう一定の賃金を維持できるようつとめるものとする」旨の条項を設けた。右条項は、教習生が予約していたが急に欠席して教習業務ができず、空き時間となった場合、教習生が初めから予約せず、空き時間となった場合、被告が原告らに講習や車両整備などを命じ、その結果、原告らが教習業務に就かない場合(以下、これらを「非教習の場合」という。)、右空き時間が技能指導員側の責任で発生したものでないことにかんがみ、教習業務を実施した場合よりも賃金を減少させないこととし、被告が技能指導員に対し、教育施設及び環境の維持改善などの業務を命じて行わせた場合のみならず、被告の都合でこれらの業務を行わせなかった場合も、右各場合について能率給を支払う旨を合意したものである。

(二) 仮に、原告ら主張の内容の右協約の締結が認められないと仮定しても、被告は、非教習の場合、昭和四〇年ころから昭和六三年一月までの間、能率給を支給しており、これは、労働協約にも定めがある上、労使間の長期間の取扱いの反復と継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となった。

(三) 被告が非教習の場合に、原告柏崎、同松本修に支払うべき能率手当の額は、別紙未払賃金計算表(乙事件)第2類型柏崎安一欄及び松本修欄及び別紙未払賃金計算表(丙事件)第2類型松本修欄記載のとおりである。

よって、右原告らは、被告に対し、本件雇用契約に基づき、別紙未払賃金一覧表(乙・丙事件)第2類型の各原告欄記載の未払賃金及びいずれも弁済期の後である、同表(乙事件)第2類型の各原告欄記載の金額に対する平成五年五月二六日から、同表(丙事件)第2類型の松本修欄記載の金額に対する平成七年二月四日から各支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  第三類型―乙事件

(一) 原告大木が同年一一月七日及び同月九日に各欠勤したのは、兄の葬儀のためであり、原告茅野が平成四年一〇月六日に欠勤したのは、子の結婚式のためである。

(二) 原告大木、同茅野は、昭和四〇年三月、谷岡学園大阪商業大学付属自動車学校から被告に出向し、現在に至っているころ、昭和四〇年三月一九日、谷岡学園代表者理事長谷岡登と大阪商業大学付属自動車学校労働組合代表者林博茂との間で締結された「再開に関する協定書」(〈証拠略〉)において、「昭和三九年一二月一日現在における大阪商業大学付属自動車学校の当該職員の一切の労働条件の存続を確認する。」旨合意し、被告は、昭和四二年一〇月、分会との間で、右協定を追認する旨合意した(〈証拠略〉)。

(三) 右原告両名については、(二)の合意に基づき、谷岡学園の就業規則が適用されるべきところ、谷岡学園の就業規則は子女の結婚に三日間の特別休暇を、兄弟姉妹の服喪に五日間の特別休暇を与える旨を定めていたので、右原告両名の右各欠勤は、特別休暇として扱われるべきであり、被告の右各欠勤に対する賃金カットは無効である。

(四) 仮に、右原告両名に対し、谷岡学園の就業規則が適用されないとしても、被告は、従来、出向者に対し、特別休暇に関する谷岡学園の就業規則を適用する取扱いを繰り返しており、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となっている。

(五) 右原告両名に対する右欠勤を理由とする賃金カット額は、別紙未払賃金計算表(乙事件)第3類型の各原告欄記載のとおり、原告大木について二万九六四八円、同茅野について金一万五一八四円である。

したがって、被告の右各欠勤に対する賃金カットは違法無効であり、右原告両名は、被告に対し、雇用契約に基づき右賃金カット相当額の未払賃金の支払を請求できる。

よって、右原告両名は、被告に対し、本件雇用契約に基づき、別紙未払賃金額一覧表(乙事件)第3類型の未払賃金欄記載の未払賃金及びこれに対する弁済期の後である平成七年二月四日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

4  第四類型―甲、乙、丙事件

(一) 被告は、振替休日及び祝日法で新たに設けられた祝日を休日として扱っており、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容になっている。

(二) 被告は、みどりの日及び祝日法上の休日を休日として取り扱っていないが、このような取扱いは、就業規則に違反する。

就業規則の定める国民の祝日を休日とする旨の定めは、制限的な定めではなく、例示的な定めにすぎない。

(三) 原告川端、同松本勇を除くその余の原告らは、別紙未払賃金計算表(甲事件)第4類型、同表(乙事件)第4類型、同表(丙事件)第4類型の各原告欄記載のように、その記載の振替休日及び祝日法上の祝日について、同日が出勤日であるとして、欠勤による賃金カットを受けたり、出勤したにもかかわらず、休日手当の支給を受けられなかったものであり、これによる未払賃金額は、右各表の各原告欄記載のとおりである。

よって、右原告らは、被告に対し、本件雇用契約に基づき、別紙未払賃金額一覧表(甲・乙・丙事件)各第4類型の各原告欄記載の未払賃金、同表(甲・乙事件)各第4類型の各原告欄記載の付加金及びいずれも弁済期の後である、同表(甲事件)第4類型の各原告欄記載の金員に対する平成三年二月一日から、同表(乙事件)第4類型の各原告欄記載の金員に対する平成五年五月二六日から、同表(丙事件)第4類型の各原告欄記載の金員に対する平成七年二月四日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

5  第5類型(甲・乙事件)

(一) 被告は、従来、原告ら従業員の年次有給休暇請求に対し、時季変更権を行使することなく、すべてこれを認めていたが、平成二年二月二六日以降、所定の枠を超える右請求に対し、一律に時季変更権を行使する取扱いをしており、このような取扱いは、労働基準法三九条三項に違反し、原告らの右年次有給休暇に基づく不就労について、被告が行った賃金カット、一時金の減額評価は無効である。

よって、原告ら中、原告橋本、同村井を除くその余の原告六名は、被告に対し、本件雇用契約に基づき、別紙未払賃金額一覧表(甲・乙事件)各第5類型の各原告欄記載の未払賃金及び付加金並びにいずれも弁済期の後である、同表(甲事件)第5類型の各原告欄記載の金員に対する平成三年二月一日から、同表(乙事件)第5類型の各原告欄記載の金員に対する平成五年五月二六日から各支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める

6  第六類型(甲・乙事件)

(一) 被告は、五月一日のメーデーを休日として扱っており、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となっている。

(二) 被告と分会は、昭和四二年四月二〇日、「メーデーに関する件(1) 五月一日(メーデー)を有給休暇とする」旨を記載した団体交渉議事録(〈証拠略〉)に被告代表者と分会会長が署名押印をして、五月一日を休日とする旨の労働協約を締結した。

よって、原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修は、本件雇用契約に基づき、被告に対し、未払賃金額一覧表(甲・乙事件)第6類型の各原告欄記載の額の未払賃金及びいずれも弁済期の後である、同表(甲事件)第6類型の各原告欄記載の金員に対する平成三年二月一日から、同表(乙事件)第6類型の各原告欄記載の金員に対する平成五年五月二六日から各支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

7  七類型(甲・乙・丙事件)

(一)(1) 原告大木、同茅野、同橋本、同村井の谷岡学園からの出向者については、二3の合意により、谷岡学園の就業規則が適用されるべきところ、右就業規則には、年末休暇が一二月二六日から三一日、年始休暇が一月二日から五日と定められていた。

(2) 被告は、長年、一二月二五日から翌年一月九日までを年末年始休暇として取り扱っており、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となっている。

(3) したがって、被告が、右原告ら四名について右取扱いを変更することは、右合意及び労働契約に反し、右原告ら四名の権利を侵害するものであるので、右原告ら四名の個別の同意を得ない限り、許されない。

被告は、右取扱いの変更が、他の従業員との間の取扱いの平等化、公平化を図り、必要性、合理性があるので就業規則の変更に合理性、必要性が認められる場合として許される旨も主張するようであるが、本件は、就業規則が改正されたものではなく、右主張が失当であることは明らかである。

(4) よって、被告が、右の期間中の右原告らの欠勤を理由として行った前記の賃金カット及び一時金の減額は違法である。

(二) 右原告ら四名は、平成二年八月一三日が時短休日であるので、時短休日としての休暇を与えられるべきであり、したがって、原告らの夏季特別休暇は、同年八月一四日から二〇日までである。

したがって、右原告らは、被告に対し、同月二〇日の出勤について休日出勤手当を請求することができる。

よって、右原告らは、本件雇用契約に基づき、被告に対し、未払賃金額一覧表(甲・乙・丙事件)第7類型の各原告欄記載の額の未払賃金及びいずれも弁済期の後である、同表(甲事件)第7類型の各原告欄記載の金員に対する平成三年二月一日から、同表(乙事件)第7類型の各原告欄記載の額の金員に対する平成五年五月二六日から、同表(丙事件)第7類型の各原告欄記載の額に対する平成七年二月四日から各支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

8  弁護士費用

被告が、本件雇用契約に基づく右未払賃金債務の支払を拒否した債務不履行の結果、原告らは、弁護士に依頼して本件訴訟の提起を余儀なくされ、次の弁護士費用の出費をしたのであるから、被告は、右債務不履行に基づく損害賠償として、右弁護士費用相当額の支払義務を負う。

(一) 甲事件 原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修、同村井各金五万円

(二) 乙事件 原告大木六万一〇〇〇円、同柏崎四万九〇〇〇円、同茅野六万一〇〇〇円、同橋本五万四〇〇〇円、同松本修五万円、同村井五万一〇〇〇円、同川端二〇〇〇円、同松本勇二〇〇〇円

(三) 丙事件 原告茅野三万三〇〇〇円、同橋本三万二〇〇〇円、同松本修一万六〇〇〇円

三  被告の主張

1  原告大木、同茅野、同橋本、同村井の勤務条件

右原告らは、昭和四〇年、谷岡学園からの出向の形を取って被告で勤務し始めたが、同原告らは、谷岡学園へ復帰することを全く予想されておらず、就業規則の適用についても、被告の就業規則が全面的に適用されている。

2  第一類型

(一) 時短振替日を休日として出勤者に休日手当を支給する取扱いは、労働契約の内容となっていない。

(1) 被告は、昭和四七年一〇月三〇日、職員組合と労働協約を締結して、確認書を作成したが、これは、従来の実質週四八時間労働を「二週を通じて一週平均四五時間」とする労働時間の短縮を図るものであり、そのため、隔週毎の月曜日を特定休日とし、勤務日を実働八時間とした(ただし、土曜日は実働九時間)。

右労働協約は、週三時間の労働時間を短縮する画期的な内容であったが、反面、短縮後の週四五時間の就労を確保するため、以下のような約定がされた。

〈1〉 毎週土曜日に実働九時間の就労ができないときは、四週間を通じて週平均労働時間四五時間を維持する。

〈2〉 土曜日に有給休暇、特別休暇、欠勤などで就労しなかったときは、一労働日の労働時間を八時間として取り扱い、就労しなかった一時間を他の週において補完し、週平均四五時間を維持する。

〈3〉 週一回九時間の就労ができず、他の週に補完する予定の者が、その賃金計算期間内に補完できず、四五時間が維持できなかった場合、早退の取扱いとする(早退三回で一回の欠勤、能率手当の不支給、賞与算定時の不就労控除の対象となるという不利益扱いを受ける。)。

〈4〉 特定休日(時短休日)が祭日と重なった場合、特定休日(同)の振替えを行わない。

(2) 被告は、右協定締結後、職員組合と合意した右労働時間短縮が労働者に有利な労働条件であったので、分会所属の従業員に対しても平等に適用すべきであるとの配慮から、分会に対しても、右確認書を交付し、同様の取扱いをする旨を通知した上、これを実施し、昭和五二年二月二一日、分会との間で、同じ内容の労働協約を締結し、同旨の確認書を作成した。

(3) 時短休日(特定休日)と祭日が重なった場合、振替えをして翌火曜日を休日として取り扱うことは、右各協約の明文に反することが明らかであるが、(2)の確認書作成時に分会から疑問が出されたり、右条項の改定を求められたことはない。

しかも、当時の就業規則が、一週平均実働四五時間とする旨を定めており、右振替えを行な(ママ)えば、週平均実働四五時間が確保できなくなるので、右振替えを行わないことを前提とする定めとなっていたことが明らかである。

(二) 被告は、昭和五五年以降、このような就業規則、労働協約に反する扱いをしていたが、昭和六二年二月ころ、右誤りに気付き、同年一〇月ころ、右労働協約の定めに従った取扱いに改めたものである。

3  第二類型

(一) 能率給は、就業規則(賃金規則)上、所定内実稼働時間に対し、一時限の教習を行った場合を一単位として支給されるものであり、教習生の欠席その他の理由で現実に教習を実施しなかったときは、支給されないことが明らかである。

(二) 被告と分会が、昭和五二年二月二一日に締結した労働協約も、就業規則の右定めを前提として、「会社としては、指導員に教習空き時間が生じた場合、労働に空白が生じないよう教習以外の作業をするよう努力し、指導員が会社の指示した作業に従事したときは教習業務に従事したのと同視して能率手当を支給する」旨の合意がされた。

右合意は、教習に空き時間が生じた場合、被告が、教習業務以外の作業指示をすることに努め、従業員も、自分の本務でなくとも、右指示に従って就労するよう努力する旨を定めるほか、被告が右業務指示をして、従業員が、右指示に従って就労したときのみ、被告が、右従業員に対し、本務の教習業務に従事したものとみなして、賃金規則所定の能率手当を支払う旨を定めたものにすぎない。

(三) 被告が、原告柏崎、同松本修に対し、教習空き時間が生じた場合、作業指示をして、両名がこれに従って作業に従事したことはなく、教習空き時間に対応する能率手当を支払ったことはない。

4  第三類型

(一) 原告大木、同茅野についても、被告の就業規則が適用されるべきところ、被告の就業規則は、兄弟の服喪について三日間の特別休暇が、子女の結婚について一日の特別休暇を与える旨を定めていた。

(二) 原告大木は、兄の葬儀のため、三日間の特別休暇を取得した上、更に二日間を欠勤したものであり、同茅野は、子の結婚式として一日間の特別休暇を取得した上、更に一日を欠勤したものであるので、右欠勤について賃金カットをすることは何ら不当ではない。

(三) 原告ら主張の労使慣行は、存在しない。

すなわち、父母の法要は、谷岡学園の就業規則が、一日の特別休暇を与える旨定め、被告の就業規則が、特別休暇の対象としていないところ、原告茅野は、昭和五五年五月二〇日、同五六年四月四日、同六一年四月一日に母の法要のため欠勤する際、年次有給休暇を取得した。

5  第四類型

(一) 被告は、従来行っていた振替休日を休日とする事実上の取扱いが、就業規則、労働協約上も根拠のない誤ったものであったため、平成元年一月より、これを改めた。

すなわち、被告の就業規則は、当初、元旦など九日の祝日を休日とする旨定め(ただし、元旦は、年末年始の休日に包含されたため、実質八日となる。)、その後の就業規則の変更により、前記の祝日実質八日に建国記念の日、敬老の日、体育の日及び会社の創立記念日の四日を休日に加えた上、月又は日を特定せず、年間を通じ一二日の出勤しなくてもよい日を設ける旨定めており、右一二日以外に祝日法上の祝(ママ)日を休日とする旨を定めるものでないことは明らかである。

(二) 被告の就業規則は、祝日法上の休日を休日と定めていないことは明らかであり、被告が、祝日法上の休日を休日として取り扱ったこともない。

6  第五類型

(一) 被告の事業は、教習生から事前に教習日時の予約を受け付ける制度で運用しており、被告が道路交通法所定の指定教習所として事業を維持するためにも、予約制を採用することが必要である。すなわち、指定教習所として、指定を受けるためには、教習時間及び教習方法が総理府令で定める基準に適合することを要するところ(同法施行令三五条)、総理府令の定める基準では、「あらかじめ、教習計画を作成し、これに基づいて教習を行うこと」が定められ、指定自動車教習所事務処理要綱により「教習計画」で定めなければならない事項として、予約事務が挙げられている(第五章第五)。

また、予約を受け付けながら、学校側の事由で教習を実施できない事態が生ずることは、勤務先を休むなどして日程を調整した教習生に多大の迷惑をかけ、被告の営業上の信用を著しく害することになる。

(二) そして、近年、若年従業員が増加し、時間外勤務を嫌がり、欠勤など所定労働時間における不就労が増えたため、事業存続上、予約済みの教習時間に就労する技能指導員の数を確実に確保することが極めて重要となった。

そこで、被告は、各教習日毎に欠勤者数の人数の上限(以下「欠勤許容者数」という。)を定めた上、右人数の就労がないことを前提として、教習の予約を受け付けることとし、平成元年二月、このような方法による予約業務を遂行する際における時季変更権の行使の運用基準を明らかにした。

(三) 右運用基準は、有給休暇請求権の行使を休暇請求の一週間前までに行使することを求めるとともに、一年間における総年休数(各従業員が取得可能な年次有給休暇の総数)を各教習日に割り振って、各教習日毎の欠勤許容人数を定め、右人数の範囲内では、先着順に年次有給休暇の請求について時季変更権を行使せず、年次有給休暇を取得させ、右人数を超える年休請求については、代替勤務者の確保が困難な場合、原則として時季変更権を行使するものである。

このように予約制度による教習業務を円滑に運用するためには、各教習日毎に欠勤許容者数の枠を定める必要があるが、過去の平日五名、土曜日及び日曜日各二名、現在の平日五名、土曜日及び日曜日各四名という枠は合理的である。

すなわち、例えば、現在の被告の技能指導員数は約一〇〇名であり、従業員が取得可能な年次有給休暇の総数は、一人平均一五日弱であるので、年間のその延べ総数は、一五〇〇日弱となる。他方、現在の平日五名、土曜日及び日曜日各四名として、欠勤許容人数を算定すると、その年間の総数は、一七〇〇人であり、約二〇〇日分が余裕日として取ってあり、原告らの有給休暇請求権の行使が妨げられないような配慮をしている。

他方、欠勤許容者数について、教習生の予約を受け付けなかったのに、実際に年次有給休暇を請求する者の数がそれに満たない事態が発生すると、被告としては、予約可能であったのに教習ができず、従業員としても、出勤したのに教習業務に従事できないため、能率給の支払いが受けられないなどの不都合が生ずるので、このような事態は、最少限度に留める必要があり、そのためには、年次有給休暇請求の数が欠勤許容者数に達しない場合、教習生の追加予約を受け付けるなどの措置が必要となるので、年次有給休暇請求を休暇日の一週間前と定めることもやむを得ないものというべきである。

また、被告は、年次有給休暇請求が、欠勤許容者数を超えてされたり、休暇日の一週間以内にされた場合であっても、本人が病気の家族を看護するなど就労を求めることが酷な事案については、格段の努力をして代替勤務者を確保して、右請求に対する時季変更権を行使しない弾力的な運用をしていた。

(四) なお、年次有給休暇請求時に欠勤許容者数を超えていたとしても、予約数が少なく余裕がある場合、時季変更権の行使をしないという取扱いは、事業の正常の(ママ)運用を妨げることになる。すなわち、予約数は、当該教習日までの間に時々刻々増加し、有給休暇請求の時点で営業日までの予約数を予測することが困難である上、このような取扱いをすると、年次有給休暇が年度の早い時期に多数消化されるため、その後も従来の欠勤許容者数の枠組みを維持すると、欠勤許容者数として、教習生の予約を受け付けなかったのに、年次有給休暇を請求する者が常時これに満たないという事態が多発することになる。

(五) 原告らの本件有給休暇請求は、いずれも、欠勤許容者数分の年次有給休暇請求が既にされた教習日についてされたものであり、代替勤務者の確保が困難であり、予約した教習生に対する教習が実施できなくなるため、被告が、事業の正常な運営を妨げるものとして、時季変更権を行使したものである。

なお、原告松本修の年次有給休暇請求中、平成元年一一月二四日についての請求は、休暇日の一週間前までにされず、その四日前にされた点からしても、被告の時季変更権の行使は適法である。

7  第六類型

(一) 被告が五月一日を休日に近い事実上の扱いをしたことは、就業規則、労働協約に根拠のない誤ったものであったので、昭和六三年から正しい取扱いに変更したにすぎない。

(二) 原告らが、五月一日を休日とする旨の労働協約であると主張する団体交渉議事録は、労使双方が、同日を有給休暇とする件を団体交渉の対象としたことを確認した内容にすぎない。

8  第七類型

(一) 原告大木ら四名について一二月二五日から翌年一月九日までを年末年始休暇とする取扱いは、就業規則にも労働協約にも根拠のない誤った取扱いである。

(二) 仮に、被告の取扱いの変更が、就業規則の変更に当たるとしても、右原告ら四名を除く他の従業員との間の公平な取扱いを目的とするものであり、合理性、必要性が認められるので、この変更は有効である。

また、このような経緯に照らせば、右原告らが、就業規則上何らかの権利を有するとしても、右原告らの第七類型の右請求は、権利の濫用に当たる。

(三) 右原告ら四名の時短休日(原告のいう時短休日)は、個人別休暇管理原簿によれば、平成二年八月一三日ではないので(原告らの同年七、八月の指定休は、七月九日、二三日、八月六日、二七日である。)、同日が時短休日に当たることを前提とする原告らの請求は理由がない。

9  原告の休日出勤手当の主張について

(一) 所定労働日以外の労働(休日労働)や所定労働時間以外の労働(時間外労働)は、労働契約において、予め労働者の労務提供義務やその対価たる使用者の賃金支払義務を定めた日又は時間ではない。

したがって、使用者が、特に休日労働や時間外労働を指示した場合は、所定の休日手当や割増賃金の支払を約して、勤務を指示し、就労を受領する意思表示をしたものとして、所定の割増賃金請求権が発生するが、被告が所定勤務日の就労を指示したにすぎない場合は、右の日が客観的に就業規則所定の休日に当たるときであっても、右指示が、割増賃金を支払わないことを前提とする勤務指示と就労の受領の意思表示であることからすれば、休日手当や割増賃金の支払請求権は発生しないと解するべきである。

(二) 被告は、従業員の時間外労働と休日労働の希望を徴した上、従業員の希望の範囲内で、会社の業務の必要に応じて時間外労働や休日労働を指示するという手続を実施しているが、原告らの請求する休日勤務手当について、休日勤務を指示していない。

したがって、原告らの請求中、休日出勤手当の支払を求める請求は、失当である。

10  弁護士費用の請求

被告が、原告らに対し、原告らの主張する弁護士費用相当額を支払うべきである旨の原告らの主張は、争う。

四  主たる争点

1  第一ないし、第四及び第六、七類型

原告ら主張の被告による従前の取扱いが労使慣行として労働契約の内容になったか否か

2  第三及び第七類型

谷岡学園から出向した原告らについて谷岡学園の就業規則を適用する旨の合意の有無

3  第四類型

みどりの日及び祝日法上の休日を休日とする旨の就業規則の定めの有無

4  第五類型

被告の時季変更権の行使の適否

5  第六類型

五月一日の欠勤を理由に賃金カットをしない旨の労働協約締結の有無

6  第七類型

時短日が夏季特別休暇と重なった場合の取扱い

7  原告らの休日出勤手当請求の当否

8  弁護士費用請求の当否

第三証拠

記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する判断

一  被告における労使関係

当事者間に争いのない事実に証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  本件自動車学校は、谷岡学園が経営していたが、昭和四〇年、被告の経営になった。

2  原告大木、同茅野、同橋本、同村井は、当初、谷岡学園との間で雇用契約を締結したが、昭和四〇年、被告に出向し、現在まで本件自動車学校で就労し、その余の原告は、当初から被告との間で本件雇用契約を締結した。

3  昭和四二、三年ころ、被告には、総評全国一般労働組合大阪地連全自動車教習所労働組合商大教習所分会(以下「商大分会」という。)と同盟交通労連関西地方本部商大自動車教習所労働組合(以下「商大労組」という。)の二つの労働組合があった。

4  昭和四六年末ころから、被告の労使関係は次第に悪化し、昭和四七年の春闘の際には、賃上げ要求をめぐって、被告と商大分会の対立は決定的となり、同年五月、団交打切り・拒否がされ、これに対し、夏季一時金支給の仮処分申請、右申請の認容決定、救済命令申立て、年末一時金支給の仮処分申請、右申請の取下げ、救済命令の追加申立て等の紛争が、昭和五一年末ころまで継続した。

5  その間、昭和四七年五月二七日、商大労組から職員組合が結成され、昭和五一年一月一九日、商大労組と商大分会は組織統一し、商大労組が解散して、分会となったが、職員組合の方が多数派であった(昭和五一年九月当時、被告の従業員約六〇名中分会に所属する者九名、昭和六〇年ころの時点で、被告の従業員約八〇名中分会に所属する者七名、職員組合に所属する者約五〇名であった)。

二  労働契約の内容となる労使慣行について

使用者と労働者との間で長期間、反復継続された労働条件に関する取扱いが、「法律行為の当事者がこれに依る意思を有せるものと認」められ(民法九二条)、契約と同じく、使用者と労働者の双方を拘束する法的効力を有するためには、右取扱いが長期間反復継続されただけでは足りず、当事者が明示的にこれによることを排斥していないことのほか、労働者のみならず、使用者の右労働条件を決定する権限を有する管理者が、この取扱いを承認し、これを準則として従うべきであるという規範意識を有することを要するものと解すべきである。そして、就業規則の定めは、それが合理的な労働条件を定めるものである限り、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、当該事業場の労働者は、就業規則の内容存在を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別の同意を与えたか否かを問わず、当然にその適用を受け、就業規則の規定内容が当該労働契約の内容をなしていると解すべきであり(最高裁昭和四〇年(オ)第一四五号同四三年一二月二五日大法廷判決・民集二二巻一三号三四五九頁、最高裁昭和五八年(オ)第一四〇八号同六一年三月一三日第一小法廷判決・裁判集民事一四七号二三七頁、最高裁昭和六一年(オ)第八四〇号平成三年一一月二八日第一小法廷判決・民集四五巻八号一二七〇頁参照)、また、労働協約は、これの定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準が個々の労働契約を直接規律する効力を有するのであるから(労働組合法一六条)、この取扱いが、就業規則や労働協約の条項と抵触する場合には、右就業規則を改廃し、新たな内容の労働協約を締結する権限を有する者又はこれと実質上同視し得る者が、このような規範意識を有することを要するものというべきである。

以下、このような見地から、原告らの主張の当否を検討する。

三  第一類型(乙事件)について

1  原告らは、被告が、遅くとも、昭和四七年ころから昭和六三年一月ころまでの間、原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修、同村井に対し、時短休日である月曜日が祝祭日である場合には、翌火曜日の時短振替日に出勤した者に対し、休日手当を支給する取扱いをしており、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となった旨主張し、原告松本修本人尋問の結果中には、これに沿う供述部分があり、被告の藤原営業部次長(以下「藤原次長」という。)が作成した(証拠略)(「総合カレンダー」と題する書面)、(証拠略)(「昭和五九年中の労働日数及び労働時間の調査」と題する書面)、(証拠略)(「昭和六〇年中の労働日及び労働時間」と題する書面)には、時短休日である月曜日が祝祭日又は振替休日であった翌日の火曜日に当たる昭和五九年一月一七日、同年九月二五日、昭和六〇年二月一二日、同年四月三〇日、同年五月七日、同年九月一七日、同年九月二四日、同年一一月五日が休日とされた旨の記載があり、被告が遅くとも昭和五五年以降昭和六三年ころまでの間、右原告らに対し、時短休日である月曜日が祝祭日又は振替休日である場合には、翌火曜日の出勤者に休日手当を支給する取扱いをしたことは当事者間に争いがなく、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、右の取扱いが、昭和四九年ころから行われていたことが認められる。

2  しかし、前判示の事実に証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告代表取締役谷岡剛(以下「谷岡」という。)は、昭和四七年一〇月三〇日、職員組合との間で、「特定休日(時短休日)が祭日と重なった場合、特定休日(時短休日)の振替えは行わないものとする」旨の条項(以下「本件条項」という。)を含む労働協約を締結して、その旨の確認書(〈証拠略〉)を作成し、同年一一月二日、分会に対し、右確認書を交付して、分会所属の従業員についても、右確認書のとおりの労働条件を実施する旨通知し、昭和五二年二月二一日、分会との間でも、「特定休日(時短休日)が祭日と重なった場合、特定休日(時短休日)の振替えは行わないものとする」旨の条項(本件条項)を含む労働協約を締結して、その旨の確認書(〈証拠略〉)を作成したものであるが、1判示の取扱いは、右各条項と抵触することが明らかである。

(二) 右各確認書は、従来の実質週四八時間労働を「二週を通じて一週平均実働四五時間」とする労働時間の大幅な短縮を図るため、隔週毎の月曜日を特定休日とし、勤務日を実働八時間とした(ただし、土曜日は実働九時間)ものであり、さらに、右確認書は、右条項以外にも、右時短実施後の週四五時間の就労を確保するため、〈1〉毎週土曜日の実働九時間の就労ができないときは、四週間を通じて週平均実働四五時間を維持する、〈2〉土曜日に有給休暇、特別休暇、欠勤などで就労しなかったときは、一労働日の労働時間を八時間として取り扱い、就労しなかった一時間を他の週において補完し、週平均四五時間を維持する、〈3〉週一回九時間の就労ができず、他の週に補完する予定の者がその賃金計算期間に補完できず、右四五時間を維持しなかった場合は早退と取り扱う(早退三回で一回の欠勤、能率手当の不支給、賞与算定時の不就労控除の対象となるという不利益取扱いを受ける。)などの詳細な規定を置いていた(〈証拠略〉)。右のような協定内容からすると、被告代表取締役谷岡は、本件条項も、二週間を通じて一週平均四五時間の労働を確保するために必要かつ重要な約定であると認識しており、これに反する取扱いを容認する意思はなかったものと推認される。

(三) 当時の就業規則(〈証拠略〉)は、一週の実働時間は二週間を通じて一週平均実働四五時間とする旨定めており、1判示のような時短休日(特定休日)の振替えを実施する取扱いをすれば、週平均実働四五時間が確保できなくなるのであるから、右振替えを行わないことを前提とする定めとなっていたものというべきであり、右取扱いは、就業規則の右の定めとも抵触する。

(四) 右確認書作成当時、被告と分会との間の労使関係は、良好とはいえなかったが、分会と被告代表取締役谷岡との間で本件条項とこれに反することが明らかな1判示の取扱いとの関係が問題にされた形跡がない。

(五) 原告らは、遅くとも、昭和五九年から六〇年当時、時短休日にも実際にはほとんど出勤して休日手当の支給を受けていた(〈証拠略〉)。

(六) 昭和六二年春ころ、被告代表取締役谷岡は、日曜日に実施されているはずの二部制が実施されていないことを知ったのを契機に、就業規則、労働協約と異なる取扱いがされていることを疑い、当時の勤労部長宇野幸三(以下「宇野部長」という。)を更迭した上、同年五月、勤労部長に小路貞一(以下「小路部長」という。)を任命し、同人に対し、就業規則及び労働協約に反する取扱いの総点検をして、これを就業規則及び労働協約の定めのとおりに改めることを命じ、職員組合及び分会に対し、就業規則、労働協約の定めに反する労働条件に関する取扱いの是正を申し入れた。職員組合は、このような基本的な方針について理解を示し、同年五月二五日、被告代表取締役谷岡との間で、「労働条件の変更・決定は、労使間における団体交渉を通じて合意された内容を書面に作成し、労使の代表者が署名または記名押印することによって、その効力を生ずるものであり、昭和六二年五月二五日以降、団体交渉及び下部機関の事務折衝過程における討論・折衝・発言等についてまで、労使双方が拘束されるものではなく、今後、労使間の紛争を予防するため、上記のとおりの運用が行われるべきことについて確認する。」旨の記載のある確認書(〈証拠略〉)を作成した。

そして、被告代表取締役谷岡は、1判示の取扱いを知り、同年二月ころ、その是正を指示し、これを前記のように改めた。

(七) 時短休日である月曜日が祝祭日と重なることは、年間約二日から六日間とそれほど頻繁にあったとはいえない上、前判示のように時短休日にも出勤する従業員が多く、同日の時短休日たる実態が失われる状態であり、被告代表取締役谷岡が、1の取扱いがされていることを当然に認識するような被告内部の事務処理が行われていたものとは認めることはできない。

3(一)  以上の事実によれば、1の取扱いが相当長期間に繰り返し行われたことが認められるとはいえ、右取扱いは、被告代表取締役谷岡が分会と締結した労働協約の本件条項の明文に抵触し、就業規則の定めとも抵触する内容であったことが認められ、2判示の経緯に照らすと、被告代表取締役谷岡が、右労働協約締結後、右取扱いを変更するまでの間、1の取扱いの存在を認識した上、これを承認していたものとは認めることはできず、かえって、被告代表取締役谷岡は、本件条項に反する取扱いを承認したり、これに従うべきであると考えていたものではないことが推認され、また、被告において、右取扱いに係る労働条件を決定する権限を有する管理者が、この取扱いを承認し、これに従うべきであるという規範意識を有するものとは認めることはできないし、右取扱いと抵触する前記の就業規則を改廃し、新たな内容の労働協約を締結する権限を有する者又はこれと実質上同視し得る者が、このような規範意識を有して、このような取扱いをしたものとも認めることはできないので、1の取扱いが使用者と労働者の双方を拘束する法的効力を有したり、労働契約の内容になるものということはできない。

(二)  もっとも、(証拠略)(「総合カレンダー」と題する書面)、(証拠略)(「昭和五九年中の労働日数及び労働時間の調査」と題する書面)、(証拠略)(「昭和六〇年中の労働日及び労働時間」と題する書面)中に、1判示のような記載があるが、右(証拠略)各証は、その記載から、藤原次長が、事務処理のための資料として、被告の昭和五八年六月から昭和六〇年当時の前判示の取扱いを客観的に記載したものにすぎないものと認められ、右(証拠略)は、各年度の労働日数や労働時間の調査の結果を記載したものあ(ママ)ることは、その表示自体から明らかであって、前判示の労働協約や就業規則の定めを改廃する趣旨で作成されたものとは認めることはできない。そして、藤原次長は、昭和四一年に入社し、人事課長に就任した後、同四九年六月一一日、営業部次長、同六〇年四月一日、勤労部次長に各就任し、昭和六一年八月一三日、定年退職した者で(〈証拠略〉)、いずれも所属の部長の下で賃金などの計算実務に従事していた者であって、右労働協約の条項や就業規則の内容に反して右取扱いを決定し、実施する権限があったとは認められない(同人は、昭和五七年二月、管理者への報告をせずに独断で指導員の教習を中止させたなどの理由で懲戒処分を受けたことがある。〈証拠略〉)。したがって、右(証拠略)各証によっても、前記の労働協約や就業規則の条項に反して、1の取扱いをする旨の決定をする権限を有する被告の管理者が、この取扱いを承認し、これに従うべきであるという規範意識を有していたものとは認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

4  したがって、右原告らの乙事件の第一類型の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

四  第二類型(乙・丙事件)

1(一)  原告柏崎、同松本修は、被告代表取締役谷岡が、昭和五二年二月二一日、分会との間で労働協約を締結したところ、教習生が予約していたが急に欠席して教習業務ができず、空時間となった場合、教習生の予約がなく、空き時間となった場合、被告が、技能指導員に対し、講習や車両整備などを命じ、その結果、技能指導員が教習業務に就かない場合について、被告が、技能指導員に対し、教育施設及び環境の維持改善などの業務を命じて行わせた場合のみならず、これらを被告の都合で命じなかった場合についても、能率給を支払う旨を右労働協約により合意した旨主張し、右労働協約に基づき、教習業務を実際に行わなかった別紙未払賃金計算表(乙事件)第2類型の各原告欄記載の日の各時限及び同(丙事件)第2類型原告松本修欄記載の各時限について、能率給の支払を請求する。

そして、原告松本修本人尋問の結果中には、これに沿う供述が、(証拠略)(別事件における同原告本人尋問調書)中には、これに沿う供述の記載があり、(証拠略)によれば、被告代表取締役谷岡は、昭和五二年二月二一日、分会との間で、労働協約を締結し、右協定の第四項において、教習空き時間について、「会社は提供される労働に空白が生じないよう一定の賃金を維持できるようつとめるものとする」旨の記載のあることが認められる。

(二)  しかし、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告の就業規則中の賃金規則は、能率手当が、休憩時間を除く所定内実稼働時間に対して支払われるものであり、技能指導員については、「一時限の教習を行った場合を一単位」として支払う旨が定められていることが認められ(一八条、〈証拠略〉)、右事実によれば、就業規則上、能率手当は、右原告両名が教習業務を実際に行った場合にのみ支払われる定めであり、教習生の欠席その他の理由で現実に教習を実施しなかった場合には、支払われない定めであったことが明らかである。

そして、(一)判示の労働協約の第四項の全文、すなわち、「教習空き時間の発生については、自動車教習所として固定的条件で避け難い現象であるが、専門職は専門職業務しか就業しないという狭い服務態度は許されないので、すべての業務について、時と場所をいとうことなく教習施設および環境の維持改善ならびに営業全般にわたって積極的に努めるものとし、会社は提供される労働に空白が生じないよう一定の賃金を維持できるようつとめるものとする。」(〈証拠略〉)及び(証拠略)に照らすと、右条項が、右就業規則の定めを改廃する趣旨のものではなく、これを前提とするものであると認められる上、その文理、とりわけ、教習空き時間の発生が不可避であり、専門職も、専門外の教習施設及び環境の維持改善並びに営業全般に関する業務に積極的に従事すべき旨を定めていることにかんがみれば、同条の約定内容は、技能指導員が教習業務に従事できない教習時間が発生した場合、教習生が予約していたが急に欠席したり、教習生の予約があることを予定して、技能指導員に教習時間を割り当てていたが、結局、予約する教習生がいなかったときなど教習予約制度に基づく教習業務の運用上不可避に生ずる空き時間について、被告が、技能指導員に対し、教習業務以外の業務指示をすることに努力し、被告が、右業務指示を行い、右指示を受けた技能指導員が、これに従って就労したときには、被告は、右従業員に対し、本務の教習業務に従事したものとみなして、賃金規則所定の能率手当を支払う旨を合意したものにすぎないと解するのが相当であり、これらの事実関係に徴すると、前掲証拠(〈証拠・人証略〉)は採用することはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

2(一)  原告らは、非教習のとき、昭和四〇年ころから昭和六三年一月までの間、能率給を支給しており、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復と継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となった旨主張し、1掲記の供述及び(証拠略)の記載中には、これに沿う部分がある。

(二)  しかし、1(二)判示の点及び証拠(〈証拠・人証略〉)に照らすと、(一)の供述及び(証拠略)の記載をもって、被告が、1(二)判示の合意内容と抵触する取扱いを長期間繰り返していたこと、右取扱いに係る労働条件を決定する権限を有する被告の管理者が、その取扱いを承認し、これに従うべきであるという規範意識を有していたことを認めるには至らない。

3  以上によれば、右原告らは、1(二)判示の労働協約における合意に基づき、技能指導員が教習業務に従事できない教習時間が生じた場合、当然に能率給の支給を請求できるものではなく、教習生が予約していたが急に欠席したり、教習生の予約があることを予定して、技能指導員に教習時間を割り当てていたが、結局、予約する教習生がいなかったときなど教習予約制度に基づく教習業務の運用上不可避に生ずるものについて、被告が、当該技能指導員に対し、教習業務以外の業務を指示し、右技能指導員が指示に従って就労したときにのみ、能率給の支払を請求できるものと認めるのが相当である。

そして、原告らの主張する各教習時間中、講習を受講したと主張する分は、技能指導員が教習業務に従事できない場合に当たるとはいえ、教習生が予約していたが急に欠席したり、教習生の予約があることを予定して、技能指導員に教習時間を割り当てていたが、結局、予約する教習生がいなかった場合など教習予約制度に基づく教習業務の運用上不可避に生ずる場合に当たるということができないのであるから、原告らは、右労働協約における合意に基づき能率給の支払を請求することはできない。

また、原告らの主張するその余の教習時間については、被告が、原告らに対し、教習業務以外の業務を指示し、原告らがこれに従って就労したことを認めるに足りる証拠はなく、したがって、原告らは、右労働協約における合意に基づき右教習時間についても、能率給の支払を請求することはできない。

4  以上によれば、右原告らの乙・丙事件の第二類型の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

五  第三類型(乙事件)

1  証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告大木、同茅野、同橋本、同村井は、谷岡学園の従業員であったが、昭和四〇年三月、被告に出向して勤務を始め、現在に至ったこと、右原告ら四名は、出向後、被告から給与の支払を受けており(ちなみに、右原告ら四名が、本件訴訟において未払賃金の支払を求める相手方も谷岡学園でなく、被告である。)、右原告ら四名の保険も、昭和四一年の時点で私学共済保険から社会保険に切替えられたこと、右原告ら四名は、谷岡学園への復帰を予定されていなかったこと、右原告ら四名と同時に谷岡学園から被告に出向した秋田忠義は、昭和六三年七月、その退職の際、退職願を谷岡学園でなく、被告宛に提出し(〈証拠略〉)、原告柏崎も、平成六年一一月、退職願を谷岡学園でなく、被告宛に提出したこと(〈証拠略〉)が認められ、右の事実によれば、右原告ら四名の出向は、いわゆる転籍出向であると認められ、右原告ら四名は、被告における就労開始のころ、谷岡学園との間の労働契約を合意解約して雇用関係を終了させ、被告との間で労働契約を締結したものと認められる。

右認定事実によれば、右原告ら四名が被告に出向した後は、右原告ら四名と、谷岡学園との間の雇用関係が終了し、被告との間の雇用関係のみが存続することになるのであるから、特段の合意がない限り、右原告ら四名についても、被告の就業規則が適用されることになると解すべきである。

2(一)  原告大木、同茅野は、昭和四〇年三月一九日、谷岡学園代表者理事長谷岡登と大阪商業大学付属自動車学校労働組合代表者林博茂との間で「再開に関する協定書」(〈証拠略〉)が締結され、「昭和三九年一二月一日現在における大阪商業大学付属自動車学校の当該職員の一切の労働条件の存続を確認する。」旨合意され、被告が、昭和四二年一〇月、商大分会との間で、右協定を追認する旨合意した(〈証拠略〉)のであるから、右合意に基づき、原告両名について、谷岡学園の就業規則が適用されるべきであるところ、谷岡学園の就業規則においては、子女の結婚に三日間の特別休暇を、兄弟姉妹の服喪に五日間の特別休暇を与える旨定めていたのであるから、原告大木が兄の葬儀のため平成四年一一月七日及び同月九日、原告茅野が子の結婚式のため同年一〇月六日、各欠勤したことについて、被告が賃金カットをしたのは違法である旨主張する。そして、原告茅野(第二回)、同大木の各本人尋問中には、これに沿う供述部分があり、谷岡学園代表者理事長谷岡登と大阪商業大学付属自動車学校労働組合代表者林博茂が、昭和四〇年三月一九日締結した再開に関する協定書(〈証拠略〉)には、昭和四〇年四月一五日を目処に本件自動車学校が谷岡学園から分離、再開されるに当たり、新企業体の健全な発展を図るため、右協定を締結する(前文)、この協定は、谷岡学園、新企業体及び労働組合に適用されるとした上(一条)、「昭和三九年一二月一日現在における大阪商大付属自動車学校の当該職員の一切の労働条件の存続を確認する」旨の条項(二条)があること、被告代表取締役谷岡は、昭和四二年一〇月、商大分会との間で、右協定書を追認する旨合意して、同月二五日覚書(〈証拠略〉)、同月三〇日追認書(〈証拠略〉)をそれぞれ作成したことが認められる。

(二)  しかし、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被告の就業規則(〈証拠略〉)は、谷岡学園からの出向社員について、遅刻早退の時間の算定方法などの賃金や退職金(被告の退職金規定をそのまま適用する旨定める。)について特別の定めをするが、休暇については、特別の定めをしておらず、就業規則上の文理上、特別休暇については、出向社員についても、他の被告従業員と区別せずに被告の就業規則を適用する趣旨であるとみるのが合理的であること、被告就業規則中、出向社員の賃金について適用される前記の特別の定めは、昭和三九年四月二四日、谷岡学園の提案を大阪商業大学付属自動車学校労働組合が受諾して成立した合意内容のとおりであり、この合意を踏まえて、(一)の合意がされたものであると認められること、谷岡学園の就業規則(〈証拠略〉)には、父母の法要に一日の特別休暇を認める旨の定め(一三条)があり、被告の就業規則(〈証拠略〉)には、父母の法要に特別休暇を与える旨の定めがないこと、原告茅野は、昭和五五年五月二〇日、同五六年四月四日、昭和六一年四月一日、亡母の法要のための特別休暇を申請したところ、被告は、これらを特別休暇と認めず、有給休暇扱いとしており(〈証拠略〉)、右原告らの特別休暇について谷岡学園の就業規則が適用される取扱いが一般的にされていたと認めることはできないこと、被告代表取締役谷岡は、昭和四二年一〇月三〇日、分会との間で右協定書を追認し、その際、「右協定書の各条項につき疑義が生じた場合、労使共夫々からなる委員会において協議するものとする」旨確約したが、その後、被告と分会が右協議をしたことを認めるに足りる証拠はないこと、被告との間の労働契約のみが存続するにもかかわらず、その従業員の一部の者である出向者に対してのみ、別法人である谷岡学園の就業規則を全面的に適用するとすれば、職場秩序の維持が困難になることが容易に予想されることからすると、労使間においてこのような合意がされることは、通常は考えにくいことなどの点に照らすと、(一)判示の協定による合意内容は、昭和三九年四月二九日に谷岡学園と大阪商業大学付属自動車学校との間で合意した賃金に関する定めを被告へ出向後も存続させる趣旨のものにとどまり、特別休暇などの休暇の定めを含む谷岡学園の就業規則の定めのすべてを原告ら出向者に適用させる趣旨でないとみる余地が多分にあることが認められ、右の点からすると、(一)の事実をもって、右原告両名を含む出向者の特別休暇を含む休暇の定めについて、谷岡学園の就業規則を適用すべき旨の合意がなされたものとは認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(三)  したがって、原告らの右主張は採用できない。

3(一)  また、原告大木、同茅野は、特別休暇に関する谷岡学園の就業規則が適用されないとしても、被告は、従来、出向者に対し、特別休暇に関する谷岡学園の就業規則を適用する取扱いを繰り返しており、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となっている旨主張し、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告茅野が昭和五七年四月六日、亡母の法要のため特別休暇を申請したところ、被告の担当者がこれを認め、同日を特別休暇として扱ったことが認められる。

(二)  しかし、2(二)判示のように、被告は、原告茅野が、昭和五五年五月二〇日、同五六年四月四日、昭和六一年四月一日、亡母の法要のための特別休暇を申請したのに対し、これらを特別休暇と認めず、有給休暇扱いとしていることからすると、右原告らの特別休暇について、谷岡学園の就業規則が適用される取扱いが一般的にされていたとは認め難く、むしろ、(一)の昭和五七年四月六日の扱いは、被告の担当者の過誤によるものである可能性が高いことなどの点に照らすと、右原告両名を含む谷岡学園から出向した原告らの特別休暇について、被告が、谷岡学園の就業規則を適用する取扱いを長期間継続したとは認め難く、また、2(二)判示の就業規則の定めに照らせば、このような取扱いが、右取扱いに係る労働条件を決定する権限を有する管理者が、この取扱いを承認し、これに従うべきであるという規範意識を有して行ったものとも認めるに足りない。

(三)  したがって、原告両名の右主張も採用できない。

4  そして、前判示の事実に証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告大木は、兄の葬儀のため、三日間の特別休暇を取得した上、更に右二日間を欠勤し、被告は右二日間の欠勤について、賃金カットをしたこと、同茅野は、子の結婚式として一日間の特別休暇を取得した上、更に一日を欠勤し、被告が同日の欠勤について前判示の賃金カットをしたこと、谷岡学園の就業規則(〈証拠略〉、一三条)には、原告主張の特別休暇の定めがあったが(右特別休暇が有給か無給かを定める規定はなかった。)、被告の就業規則(〈証拠略〉、一九条)は、兄弟の服喪について三日間の特別休暇を、子女の結婚について一日の特別休暇を与える旨を定めていたことが認められるのであるから、被告のした右欠勤を理由とする賃金カットが違法であるとは認められない。

5  以上によれば、原告両名の乙事件第三類型の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

六  第四類型(甲・乙・丙事件)

1  原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本、(ママ)同村井は、被告が、振替休日及び祝日法で新たに定められた祝日を休日とする取扱いを長期間反復継続しており、右取扱いが労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となっているとして、被告が、原告らが振替休日及びみどりの日に出勤したのに休日手当を支払わなかったり、原告らが欠勤すると賃金カットをしたのは違法であり、被告に対し、右休日手当額及びカット相当分の賃金の支払を請求できる旨を主張する。

そして、原告茅野本人尋問の結果(第一回)中には、これに沿う供述があり、被告が、昭和四八年祝日法が改正され、振替休日が休日と定められた後(〈証拠略〉)、右振替休日を休日として取り扱い、原告らが欠勤しても、賃金カットをせず、原告らが出勤した場合には休日手当を支払う取扱いをしていたが、平成元年一月、右取扱いを改め、振替休日に欠勤した者に対して、賃金カットを行い、同日に出勤した者に対して休日手当を支払わず、欠勤した右原告らに対し、同日分の賃金カットを行ったことは当事者間に争いがなく、証拠(〈人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和四九年ころ以降このような取扱いをしていたことが認められる。

2(一)  しかし、昭和四〇年九月一日制定の被告の就業規則は、当初、国定祝日として、元旦、成人の日、春分の日、天皇誕生日、憲法記念日、子供の日、秋分の日、文化の日、勤労感謝の日の九日を休日とする旨定めたが(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)、昭和六一年の改正の結果(〈証拠略〉)、月又は日を特定せず、年間を通じて一二日の出勤しなくてもよい日を設けるとした上、成人の日、建国記念の日、春分の日、天皇誕生日、憲法記念日、子供の日、敬老の日、秋分の日、体育の日、文化の日、勤労感謝の日、創立記念日がこれに当たると定められたが、振替休日を休日とする旨の定めがなされていないことが認められ、以上によれば、就業規則上、振替休日を休日としないことが明らかであり、1の取扱いは、就業規則の定めに抵触するものと認められる。

(二)  そして、使用者と労働者との間で労働条件に関する取扱いが長期間、反復継続された場合であっても、これが契約と同じく、使用者と労働者の双方を拘束する法的効力を有するためには、当事者が明示的にこれによることを排斥していないことのほか、使用者の右労働条件を決定する権限を有する管理者が、この取扱いを承認し、これを準則として従うべきであるという規範意識を有することを要するものと解すべきであり、この取扱いが、就業規則や労働協約の条項と抵触するときには、右就業規則を改廃する権限を有する者又はこれと実質上同視し得る者が、このような規範意識を有することを要するものと解すべきことは二判示のとおりである。

そして、前判示の事実に証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告代表取締役谷岡が、昭和六二年春以降、就業規則、労働協約と異なる取扱いがされていることを疑うようになり、当時の宇野部長を更迭した上、同年五月、小路部長を任命し、同人に対し、就業規則及び労働協約に反する取扱いの総点検と就業規則及び労働協約の定めどおり是正することを命じ、多数組合である職員組合は、これに理解を示し、同年五月二五日、被告代表取締役谷岡との間で、三2(六)判示の内容の確認書を作成したこと、被告代表取締役谷岡は、平成元年一月、1判示の取扱いがされていることを知り、就業規則に反することを理由に、その変更を指示したことが認められ、右の事実に被告代表取締役谷岡が昭和六二年以前から右の取扱いを知っていたことを認めるに足りる証拠がないことを総合勘案すると、1判示の事実及び証拠をもって、右労働条件を決定する権限を有する被告の管理者、すなわち、就業規則を改廃する権限を有する者又はこれと実質上同視し得る者が、この取扱いを承認し、これを準則として従うべきであるという規範意識を有していたとは認め難く、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、振替休日を休日とする右取扱いが、契約と同じく、使用者と労働者の双方を拘束する法的効力を有するものと認めることはできない。

(三)  したがって、原告らの右主張は採用できない。

3  原告らは、みどりの日及び祝日法上の休日(五月四日)を休日とする取扱いをしなかったことが、被告の就業規則に違反する旨主張するが、2(一)判示の就業規則の条項の文理は、祝日法に定められる祝日や休日をすべて被告の休日とする旨を定めるものではなく、右規則で明示された前記の日のみを就業規則上の休日と定める趣旨であって、みどりの日の及び祝日法上の休日を休日とする趣旨ではないものとみるのが合理的である上、証拠(〈証拠略〉)によれば、祝日法上の休日について、原告橋本は、平成元年、原告柏崎は、昭和六三年及び平成元年に有給休暇を取得する手続をしたことが認められ、右の事実によると、原告らも、被告が、みどりの日及び祝日法上の祝日(ママ)について、これを休日とする取扱いをしなかったことを是認していたことをうかがうことができることを総合考慮すれば、被告の右取扱いが、就業規則に違反するとは認められないから、原告の右主張も採用できない。

4  したがって、右原告らの甲・乙・丙事件の第四類型の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

七  第六類型(甲・乙事件)

1  当事者間に争いのない事実に証拠(〈証拠・人証略〉)を総合すれば、被告代表取締役谷岡は、昭和四二年四月二〇日、商大分会代表者分会長多田隆との間において、五月一日に欠勤した者に対し、右欠勤を理由に賃金カットをしない旨の労働協約を締結したことが認められ、商大分会が職員組合結成後の商大労組と組織統一し、商大労組が解散し、分会となったことは前判示のとおりである。

2(一)  被告は、(証拠略)が、メーデーを有給休暇とする件について団体交渉の対象としたことを労使双方が確認した団体交渉議事録にすぎない旨主張し、(人証略)も右主張に沿う証言(第二回)をするところ、(証拠略)の表題が団体交渉議事録であり、交渉内容の項にメーデーに関する記載がなされていること、(証拠略)によれば、被告は、職員組合に対し、昭和六三年四月二七日、「昭和六三年四月二五日組合申入れの件について」と題する文書(〈証拠略〉)を送付し、右文書には、「1 五月一日(メーデー)の取扱いについて (1)五月一日は、所定通常勤務日であって、祝日並びに特別休暇又は時短に該当する日でないことは双方で確認しております。(2)但し、五月一日の勤務日については、二五%の割増賃金を付加して支給することで合意しています。」という記載があり、右文書に対する職員組合の返答を記載した文書(〈証拠略〉)中には、「(1)の所定通常勤務日と云う表現には、不満もございますが、当組合は、会社の心ある取はからいに感謝し、(1)、(2)項目については、合意致しました。」という記載のあることが認められる。

(二)  しかし、(証拠略)は、被告代表者取締役谷岡及び分会会長多田が署名押印したものであること、右(証拠略)の記載は、「3 メーデーに関する件 (1)メーデー(五月一日)を有給休暇とする」というものであり、右記載自体、メーデーに関する件が団体交渉の対象となり、その結果、五月一日を有給休暇と合意したことを確認する趣旨であるとみる方が自然であること、右(証拠略)のその余の条項は、「2 組合事務所に関する件 (1)現在の事務所を移転するが、今後組合会議等の場合は教室等の使用について教習に重大な支障のない限り認める」「4路上教習に関する件 早急に協定化出来るよう努力する」と記載され、右記載も、団体交渉の対象事項を確認する趣旨であるとみるよりも、団体交渉の結果の合意事項を記載したものとみるのが自然であること、被告は、昭和四四年から昭和六三年四月まで、五月一日(メーデー)に出勤した者に対し、時間外手当を支払い、出勤しない者に対しても欠勤扱いをしない取扱いをしていたことは当事者間に争いがなく、被告は、昭和六三年四月以降も、五月一日に出勤した従業員に対して、休日出勤並みの時間外勤務手当を支払っていることを認めており、休日でない日と異なる扱いをしていること、(人証略)も、被告の谷岡学園からの出向者である従業員について、(証拠略)により、五月一日(メーデー)を有給休暇扱いにした旨証言(第二回)し、(証拠略)が単なる団体交渉の対象となった事項を確認する議事録とはいえない旨の証言(第二回)もしていること、(証拠略)の各文書は、分会でなく、職員組合と被告の間で交付されたものであり、五月一日に二五パーセントの割増手当の支払を合意した旨の記載がある上、被告が職員組合に交付した右文書(〈証拠略〉)には「(3) 五月一日は、所定勤務日であるので、欠勤者は当然欠勤扱いの適用を受けることになります。(4) 貴組合と五月一日に出勤することを約束してもらっております。したがって、物理的事情(本人のケガ・病気・家族の慶弔・本人の結婚等)によって欠勤するもの以外、当日は日曜日であり有給休暇の申請、時短の振り替えはいたしません。」という記載があるのに対し、職員組合が被告に返答した前記の文書(〈証拠略〉)には、「(3)、(4)項目については、労働条件の変更であり、当然、団体交渉において、協議の上で、決定合意すべき問題であると当組合では理解しております。即ち、(3)、(4)については、後日、団体交渉を開催設定し協議を行うこととし、今回のメーデー出勤の条件から、(3)、(4)を切り離すことをここに申入れます。」という記載があり、右記載に照らせば、同組合が、五月一日に欠勤した場合、賃金カットすることを従来から合意していたとは認められないことに徴すると、(一)判示の事実及び証拠をもって、1の認定を覆すに足りず、ほかにこれを左右するに足りる証拠はない。

3  そして、右労働協約の終了事由の主張立証がないのであるから、右労働協約によれば、被告が、五月一日を欠勤にした者について、欠勤を理由に賃金カットをしたり、一時金の減額評価をして、右部分の賃金の支払を拒否することは、許されないものというべきである。

4(一)(甲事件)

原告大木、同柏崎、同茅野、同橋本、同松本修が平成元年五月一日及び同二年五月一日に欠勤し、被告が、右欠勤を理由に、別紙未払賃金計算表(甲事件)第6類型の各原告欄記載の金額の賃金カット及び年末一時金を(ママ)の減額評価を行い、右金額の賃金を支払わなかったことは、当事者間に争いがないので、右原告らは、被告に対し、別紙未払賃金一覧表(甲事件)第6類型の各原告欄記載の未払賃金額及びこれに対する弁済期後である平成三年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

(二)(乙事件)

(1) 原告柏崎、同松本修は、平成三年及び同四年の各五月一日に欠勤し、被告が、原告柏崎について、平成三年五月一日の欠勤につき一万〇五〇四円の、平成四年五月一日の欠勤につき一万一一二八円を下回らない額の賃金カット及び二万七四三四円の平成四年度夏季一時金の減額評価を行い、計四万九〇六六円の金額の支払をしなかったこと、原告松本修について、右欠勤につき各金一万一二八〇円を下回らない賃金カット及び二万七七六五円の平成四年度夏季一時金の減額を(ママ)評価を行い、計五万〇三二五円の賃金の支払をしなかったことは、当事者間に争いがない。

(2) 原告両名は、平成四年五月一日の欠勤に対する賃金カット額が原告柏崎について一万一一六〇円、原告松本修について一万一一三二円であった旨を主張するが、右賃金カット額が(1)の認定額を上回ることを認めるに足りる証拠はない。

(3) したがって、被告に対し、原告柏崎は、右未払賃金四万九〇六六円、原告松本修は、同五万〇三二五円及び右各金員に対する弁済期の後である平成五年五月二六日から各支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

5  したがって、原告らの甲・乙事件の第六類型の未払賃金請求は、右の限度で理由がある。

八  第七類型(甲・乙・丙事件)

1  原告大木、同茅野、同橋本、同村井は、原告ら四名の谷岡学園からの出向者については、五2(一)の合意により、谷岡学園の就業規則が適用されるべきである旨主張する。

そこで、案ずるに、谷岡学園の就業規則(〈証拠略〉)では、年末の休日が一二月二六日から三一日まで、年始の休日が一月二日から一月五日までと定められていたことが認められるが、右原告ら四名を含む出向者の休暇の定めについて、谷岡学園の就業規則を適用すべき旨の原告ら主張の合意がなされたものとは認めるに足りないことは五判示のとおりであるので、原告らの右主張は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

2(一)  右原告ら四名は、被告が、昭和四〇年から平成元年ころまで、右原告ら右四名について、一二月二五日から翌年一月九日までを年末年始休暇として取り扱っており(一二月二五日と一月九日は半日)、このような取扱いは、労使間の長期間の取扱いの反復継続により、労使慣行化され、労働条件として、原告らと被告の法的確信によって支えられ、本件雇用契約の内容となっている旨主張する。

そこで案ずるに、被告が、原告ら四名について、昭和四〇年ころから、一二月二五日から翌年一月九日までを休日(ただし、一二月二五日及び一月九日は半日休)として取り扱っていたこと、被告が、遅くとも、平成元年一二月以降、これを改め、一日減の一二月二五日から翌月の一月八日までを休日(一二月二五日、一月八日は半日休)として取り扱うようになったことは、当事者間に争いがなく、被告の藤原次長が昭和四三年九月二四日、労働委員会に提出する資料として作成した(証拠略)には、商大分会所属の組合員の労働条件として、年末年始休暇を一二月二五日から一月八日までの一四日とする旨の記載があり、(証拠略)には、「原告ら四名及び秋田忠義の昭和五八年年末、昭和五九年年始の休暇について、工事の都合により、本年に限り、下記の取扱いとする。記 休暇の期間は、一二月二六日から一月八日までのところ、一二月二一日より一月四日までとする」旨の記載があり、右書面に、被告の宇野幸三と出向者代表原告茅野が署名した事実が認められる。

(二)  しかし、昭和四〇年九月一日制定の被告の就業規則は、当初、一二月二九日から一月四日までを年末年始の休日とする旨定めたが(〈証拠略〉)、昭和六一年(〈証拠略〉)及び平成元年の改正(〈証拠略〉)でもこの定めが維持されており(〈証拠略〉)、(一)の取扱いは、就業規則の定めに抵触することが明らかである。

(三)  そして、使用者と労働者との間で労働条件に関する取扱いが長期間反復継続された場合であっても、これが契約と同じく、使用者と労働者の双方を拘束する法的効力を有するためには、当事者が明示的にこれによることを排斥していないことのほか、使用者の右労働条件を決定する権限を有する管理者が、この取扱いを承認し、これを準則として従うべきであるという規範意識を有することを要するものと解すべきであり、この取扱いが、就業規則と抵触するときには、右就業規則を改廃する権限を有する者又はこれと実質上同視し得る者が、このような規範意識を有することを要するもの解すべきことは二判示のとおりである。

そして、前判示の事実に証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告ら四名が適用すべきである旨主張する谷岡学園の就業規則も、年末の休日が一二月二六日から三一日、年始の休日が一月二日から一月五日までと定めており、(一)の取扱いは、被告の就業規則はもとより、谷岡学園の就業規則の定めとも抵触し、その根拠、理由も明らかでないこと、被告は、平成元年一月には右取扱いを就業規則に反することを理由に変更したこと、右変更の経緯は、被告代表取締役谷岡が、昭和六二年春以降、就業規則、労働協約と異なる取扱いがされていることを疑うようになり、当時の宇野部長を更迭した上、同年五月小路部長を任命し、同人に対し、就業規則及び労働協約に反する取扱いの総点検と就業規則及び労働協約の定めのとおりに是正することを命じ、多数組合である職員組合は、この基本方針について理解を示し、同年五月二五日、被告代表取締役谷岡との間で、三2(六)判示の記載の確認書を作成したこと、被告代表取締役谷岡は、前記の取扱いについても、これを知って、変更を指示し、平成元年一二月から右取扱いを改めたこと、その際、就業規則所定の年末年始の休日である一二月二九日から一月四日及びその前後に各三日分の指定休日を指定して、一二月二六日から一月七日までを休日とし、一二月二五日と一月八日を半日休とする取扱いにしたこと、(証拠略)は、労働委員会に提出する資料として、被告において、当時行われていた取扱いの現状を報告するために記載したものにすぎず、右(証拠略)を作成したことをもって就業規則に定められた労働条件を変更する趣旨であるとは認められないこと、(証拠略)の記載も、昭和五八年年末休暇と同五九年年始休暇の取扱いを明らかにすることに主眼を置いたものである上、「休暇の期間は、一二月二六日から一月八日までのところ」という記載も、当時行われていた取扱いの現状を記載したものにすぎず、その記載により、就業規則に定められた労働条件を変更する趣旨であるとは認めるに足りないことが認められ、以上の経緯に照らすと、1判示の事実及び証拠をもって、右労働条件を決定する権限を有する使用者側の管理者、すなわち、就業規則を改廃する権限を有する者又はこれと実質上同視し得る者が、この取扱いを承認し、これを準則として従うべきであるという規範意識を有していたことは認め難く、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告ら主張の年末休暇が一二月二六(ママ)日から三一日、年始休暇が一月二日から九日までとする右取扱いが、契約と同じく、使用者と労働者の双方を拘束する法的効力を有するものと解することはできないし、右(一)の取扱いが労働契約の内容となったとは認めることができないので、原告らの右の主張も採用できない。

3(一)  最後に、右原告ら四名は、平成二年八月一三日が時短休日に当たるので時短休日としての休暇を与えるべきであり、したがって、原告ら四名の夏季特別休暇は、同年八月一四日から二〇日までとなるので、被告は、同月二〇日に出勤した原告ら四名について、休日出勤手当を支払うべきである旨主張する。

(二)  しかし、被告の就業規則(〈証拠略〉)は、時短休日が夏季特別休暇と重なった場合、夏季特別休暇を時短休日の翌日とする旨の定めはなく、就業規則上、原告ら主張の取扱いをすべきものと解することはできない上、被告が、原告主張のような定めの労働協約を締結したり、原告ら主張の取扱いが長期間継続反復されたことを認めるに足りる証拠もないのであるから、原告らの主張は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

(三)  のみならず、時短休日は、被告の就業規則(〈証拠略〉)において、被告が、割当カレンダーにより、毎月、指定すべき旨が定められていたところ(一四条三号、六号)、(証拠・人証略)及び弁論の全趣旨に照らすと、被告が、平成二年八月一三日を時短休日に指定したことは認めるに足りないのであるから、この点からも、原告らの右主張は採用できない。

4  したがって、右原告ら四名の甲、乙、丙事件の第七類型の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

九  第五類型(甲・乙事件)

1  前判示の事実に証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 被告は、指定自動車教習所(道路交通法九九条)であり、昭和四〇年以降、教習生から事前に教習日時の予約を受け付けて、教習を実施する制度を採用していた。

大阪府警察本部交通部免許課の定める「指定自動車教習所関係事務処理要綱」(〈証拠略〉)は、教習計画書で定めるべき事項として、技能研修の予約事務を挙げており(第4、3(2)ア)、指定教習所は、教習生から事前に教習日時の予約を受け付けて、教習を実施するのが通常の教習方法であり、被告も、指定自動車教習所として、事業を正常に運営するためには、このような予約制による教習制度を実施することが極めて重要であった。

(二) 予約制度による教習を実施する場合、予約した教習予定日に、技能指導員の多数が年次有給休暇を取るなどして欠勤したため、予約済みの教習を実施するに十分な技能指導員が確保できず、教習が実施できない事態が生ずることは、勤務先を休むなど日程を調整して来校した教習生に多大の迷惑をかけ、被告の信用を著しく害することになる。

また、技能指導員が年次有給休暇の請求を希望する時期は、教習生の予約希望が多い時期と重なりやすい上、右請求が特定の時期に集中すると、この時期には、教習生の予約希望の大部分を受け付けることができなくなり、被告の事業の正常な運営を妨げることになる。

そこで、被告は、予約受付時に各教習日に欠勤を予定する技能指導員の数を正確に予測し、出勤する技能指導員の数に応じた数の教習を予約するとともに、年次有給休暇による欠勤者が特定の時期に集中することを防止し、必要な数の技能指導員を確保し、もって、教習生の予約希望に適切にこたえるため、昭和四〇年以降、各教習日毎に予め定めた有給休暇の取得者数の上限を上回る年次有給休暇の請求がされた場合、代替勤務者の確保を試みた上、これが困難な場合には、時季変更権を行使する取扱いをしていた。

(三) 有給休暇の申請手続について、被告は、昭和五二年二月一日、総評全国一般大阪地連全自動車教習所労働組合及び商大分会との間で、有給休暇の請求は、前々日の退勤までに届け出て承認を得ること、当日の請求は認められず、この場合は欠勤扱いとする旨の労働協約を締結し、その旨の協定書を作成した(〈証拠略〉)。

(四)(1) その後、若い技能指導員が増加し、時間外労働に就くことを嫌う者が増え、有給休暇請求に伴う代替勤務者の確保が一層困難になってきた。

そこで、被告は、平成元年二月六日、「年次有給休暇の与え方について」と題する文書(〈証拠略〉)を従業員に公表し、年次有給休暇については、労働基準法三九条の定めるとおりとする、年次有給休暇請求は、原則として、休暇日の一週間前までに届け出て承認を得る、年次有給休暇請求が、その請求順に、欠勤許容者数に達するまでは、時季変更権の行使をしないが、教習日における年次有給休暇を予定する者の数が予定休暇者数に達した後、右教習日について、更に年次有給休暇が請求された時は、被告は、代替勤務者の確保を試み、これが困難な場合には、時季変更権を行使して、他の日と振り替える、被告は、各教習日における予定休暇者数を公表するので、従業員が計画的に年次有給休暇を取得することを希望する旨(以下「本件基準」という。)を明らかにした。被告は、右のように、従業員の年次有給休暇請求に対する被告の時季変更権行使の基準を示すことによって、予約受付時に各教習日に有給休暇を取得して欠勤する技能指導員の数を正確に予測するとともに、従業員の有給休暇請求が特定の時期に集中することを防止することを図り、各教習日の予約を受け付ける際には、欠勤許容者数の技能指導員の就労がないことを前提として、その分の予約は受け付けないこととした。

そして、年次有給休暇請求が欠勤許容者数に達した教習日について、更に年次有給休暇請求がされた場合、被告は、祝日技能指導員の資格を有する、管理職三、四名及び受付業務や事務に従事する業務課員三、四名について、その本務の繁忙を考慮して、右請求者に代わって、技能指導員の職務に従事することを命じたり、当日、年次有給休暇を取得したり、就業規則所定の休日で欠勤を予定する者の中から本人の承諾を得て、右請求者に代わって、技能指導員の職務に従事させるなど代替勤務者を確保する努力をした上で、これが困難であるときには、時季変更権を行使する取扱いをした。

しかし、右欠勤を予定する者から代替勤務者となることの承諾を得ることは容易でない場合が多く、また、業務課員や管理職も、代替勤務者となることは、その本務の遂行を妨げることが少なくなく、代替勤務者の確保は、容易でない場合が少なくなかった。

(2) 被告は、欠勤許容者数を、まず、平成元年から平日五人、土曜日、日曜日を各二人と定めて、その運用を始め、その後、右運用結果を検討し、土曜日、日曜日に年次有給休暇を請求する希望者が多いことも配慮して、平成二年ころから平日五人、土曜日、日曜日各四名と定めて公表し、現在に至っている。

年間の欠勤許容者数の合計が、技能指導員全体が法律上有する総年次有給休暇数より多く定めるほど、従業員がその希望する時期(ママ)に年次有給休暇を取ることが容易になる。他方、欠勤許容者数については技能指導員の就労がないことを予定し、教習生の予約を受け付けないのであるから、欠勤許容者数を実際の年次有給休暇の請求者より、多く定めるほど、技能指導員が出勤しても、教習を実施できないという事態が頻繁に生ずることになり、被告が、技能指導員の能力に応じた労務の提供を受けられなくなる上、技能指導員も、出勤したのに、教習を実施した場合に支給される能率給の支給が受けられなくなるという結果になり、被告の事業の正常な運営を妨げることになる。

そこで、被告は、技能指導員全員が法律上請求できる年次有給休暇の総数(以下「総年休数」という。ただし、右総数には前年度から繰り越された年次有給休暇の総数を含む。)を算定した上、従業員がなるべく希望する時期(ママ)に年次有給休暇を取得できるよう配慮して、それよりも多い総年休予定数を被告の年間営業日数三六〇日に配分して算定することとし、右のようにして配分・算定した総年休予定数は、平成二年以後の欠勤許容者数では、総年休数より約二〇〇日多い日数とした。

ちなみに、被告の従業員の年次有給休暇の消化率は、平均約九〇パーセントである。

(3) 各教習日における実際の年次有給休暇の取得者が、欠勤許容者数に達しない場合、予約された教習の数が、出勤する技能指導員が実施可能な教習の数を下回ることになり、前判示のように、技能指導員が出勤しても、教習を実施できないため、能率給の支給を受けられなくなり、被告も、技能指導員の能力に応じた労務の提供を受けられなくなるという事態が発生することになる。

そこで、被告は、このような事態の発生を防止すため、各教習日における実際の年次有給休暇の取得者が、欠勤許容者数に達しない場合、教習生の予約の追加受付をして、前記のような事態の発生の防止に努めているが、このような措置を実施するためには、各教習日における年次有給休暇の取得者数をその一週間前には確定する必要があった。

被告は、年次有給休暇が請求された場合における代替勤務者の確保の試みのほか、このような予約の追加受付のための時間を得るため、年次有給休暇の請求を、休暇日の一週間前と定めたものである。

(4) 年次有給休暇を請求した者の数が欠勤許容者数に達した教習日について、更に年次有給休暇が請求されたが、右請求時に受付済みの予約数が少なく、まだ余裕がある場合であっても、予約数が、当該教習日までの間に時々刻々増加し、右請求時において、当該教習日までに申し込まれる今後の予約数を予測することが困難であるので、このような場合に時季変更権を行使しないとすると、予約された教習を実施するに必要な技能指導員の数を確保することが困難になる。

のみならず、このような場合に時季変更権を行使しないとすれば、年次有給休暇請求が、年度の早い時期に集中し、この時期に多数の年次有給休暇が消化されるため、その後も欠勤許容者数を維持すると、出勤する技能指導員の数に応じた予約教習数が確保されず、(2)、(3)判示のような事業運営上著しい不都合が生ずる上、被告が、年次有給休暇請求の実績を考慮しながら、年度途中で、その都度、欠勤許容者数を変動させることは、その後の予約申込みの数を予測することが困難であるので、その実施は容易ではない。

(五) 被告は、以上のような本件基準に従って、時季変更権の行使を行っていた。

しかし、年次有給休暇を請求した者の数が欠勤許容者数に達した教習日について、更に年次有給休暇が請求された場合や、年次有給休暇の請求が、本人の急病、事故、家族の病気の看護など一週間前に年次有給休暇を請求することが困難であったり、就労を求めることが酷である場合については、被告は、管理職に対し、その本務に多少の支障が生ずる場合であっても、右請求に代わって教習事務に従事させるなど代替勤務者の確保に例外的に格段の努力をして、右年次有給休暇請求に対して、時季変更権を行使しない取扱いにも努めており、このような例は、平成二年九二回、同三年一〇八回、同四年一二九回あった(〈証拠略〉)。

(六)(1) 原告松本修は、平成元年一一月二〇日、同月二四日について有給休暇を請求したが、被告は、右休暇請求が休暇日の一週間前までにされたものでなかった上、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達しており、代替勤務者を確保することが困難であったため、被告は時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

(2) 同原告は、平成二年一月二三日、同年二月三日について年次有給休暇を請求したが、被告は、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達しており、繁忙時期であり、代替勤務者の確保も困難であったため、時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

(3) 同原告は、同年一月二九日、同年二月一〇日について年次有給休暇を請求したが、被告は、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達しており、繁忙時期であり、代替勤務者の確保も困難であったため、時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

(4) 同原告は、同年二月六日、同年二月一七日について年次有給休暇を請求したが、被告は、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達しており、繁忙時期であって、代替勤務者の確保も困難であったため、時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

(5) 同原告は、同年一〇月一二日、一〇月一八日について年次有給休暇を請求したが、被告は、右請求が休暇日の一週間前までにされたものでない上、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達しており、繁忙時期であって、代替勤務者の確保も困難であったため、時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

(6) 原告大木は、同年九月二五日、同年一〇月五日について年次有給休暇を請求したが、被告は、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達しており、繁忙時期であって、代替勤務者の確保も困難であったため、時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

(七)(1) 原告大木、同柏崎、同茅野、同松本修は、平成三年九月三日、同月三〇日の大阪地方裁判所における同原告らが当事者である訴訟(当庁平成元年(ワ)第四四八五事件)の口頭弁論期日(被告側の〈人証略〉に対する反対尋問期日)を傍聴するため、同日の年次有給休暇を請求したが、被告は、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達しており、代替勤務者の確保も困難であったため、時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

なお、右原告らと共に右訴訟の当事者となっていた原告橋本、同村井も、右裁判を傍聴するため、同日について年次有給休暇を請求したが、右請求当時、同日にされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達していなかったため、右両名の年次有給休暇について、被告は時季変更権を行使していない(〈証拠略〉)。

(2) 原告松本勇は、平成三年一〇月一六日、同年一一月四日について年次有給休暇を請求した。しかし、被告は、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達していた上、更に二名の有給休暇が請求され、代替勤務者を確保して、時季変更権を行使しなかったところへ、更に、同原告の右有給休暇請求があり、更に代替勤務者を確保することが困難であったため、時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

(3) 原告川端は、平成四年六月一九日、同月二九日について年次有給休暇を請求したが、被告は、既に同日についてされた有給休暇請求数が欠勤許容者数に達しており、代替勤務者の確保も困難であったため、時季変更権を行使した(〈証拠略〉)。

2  原告らは、被告の右各時季変更権の行使が労働基準法三九条に違反する旨主張し、これを前提に甲・乙事件第五類型の賃金の支払を請求するので、右時季変更権行使の適否について判断する。

年次有給休暇の権利は、労働基準法三九条一、二項の要件の充足により、法律上当然に生じる権利であり、同法は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすべきことを要請していると解すべきであり、そのような配慮をせずに時季変更権を行使することは、右の趣旨に反するものといわなければならないが、使用者が、通常の配慮をしたとしても、代替勤務者を確保することが困難であるなどの客観的事情があり、指定された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げるものと認められる場合には、使用者の時季変更権の行使が適法なものとして許容されるべきことは、同条三項ただし書の規定により明らかである(最高裁昭和五九年(オ)第六一八号同六二年七月一〇日第二小法廷判決・民集四一巻五号一二二九頁、同六〇年(オ)第九八九号同六二年九月二二日第三小法廷判決・裁判集民事一五一号六五七頁、同平成元年(オ)第三九九号同四年六月二三日第三小法廷判決・民集四六巻四号三〇六頁参照)。

そこで、被告の時季変更権の行使についてみるに、前記認定の事実によれば、被告の自動車教習所の業務は、教習の予約制度により運用することが不可欠であり、そのためには、被告が、予約受付時に各教習日に欠勤を予定する技能指導員の数を正確に予測し、出勤を予定する技能指導員の数に応じた数の教習生の予約を確保するとともに、年次有給休暇を取得して欠勤する者が特定の時期に集中することを防止し、教習生の予約希望に適切にこたえるため、必要な数の技能指導員を確保することが事業の正常な運用上極めて重要であることが認められ、したがって、このような教習業務と技能指導員の業務内容の特性に照らすと、各教習日毎に欠勤許容者数を定めた上、年次有給休暇による技能指導員の欠勤者が欠勤許容者数に達した教習日について、更に他の技能指導員から年次有給休暇の請求がされた場合、事業の正常な運営を妨げる場合に当たるものとして時季変更権を行使するという基準を定め、これに従って、時季変更権を行使することは、使用者が通常の配慮をすれば、同日に代替勤務者を確保することが客観的に可能な状況であったとは認められず、また、欠勤許容者数の定め方が前判示の同条の趣旨に反することなく、被告の日常業務の実態に照らして合理的なものである限り、同条ただし書により許されるものというべきである。

そして、年間の欠勤許容者数の合計を総年休数より、小さく定めることは、同条の趣旨に照らして許されないことは明らかであるところ、前記認定の事実によると、被告は、欠勤許容者数を右総年休数より多く定め、とりわけ、年間の欠勤許容者数の総数を総年休数より多く定めるほど、従業員がその希望する時期(ママ)に年次有給休暇を取ることが容易になる反面、年間の欠勤許容者数の総数を、実際に請求される年次有給休暇の総数より、過大に定めると、教習の予約を受け付けることが客観的には可能であるのに、これを受け付けないため、技能指導員が出勤しても、教習を実施することができず、被告が技能指導員の能力に応じた労務の提供を受けられない上、技能指導員も、教習を実施した場合に取得できる能率手当の支払を受けられない事態が頻繁に発生して、事業の正常な運営を妨げることになること、被告は、総年休暇数を算定した上、従業員がなるべく希望する時季に年次有給休暇を取得できるよう配慮して、それよりも多い総年休予定数を被告の年間営業日数に配分して算定したものであり、平成二年以降の欠勤許容者数では、総年休数より、約二〇〇日多い日数を総年休予定数としたことなどの事実に照らすと、被告の欠勤許容者数の定め方は、同条の趣旨に反するものではなく、被告の日常業務の実態に照らしても合理性があるものと認められる。

そして、前判示の事実によれば、被告ら(ママ)は、右の基準に従って、1の各時季変更権を行使したものということができ、当時、同日に代替勤務者を確保することが客観的可能な状況であったと認められないのであるから、右時季変更権の行使は、同条ただし書により適法なものと解すべきである。

3  もっとも、被告は、年次有給休暇を請求した者の数が欠勤許容者数に達した教習日について、さらに年次有給休暇が請求された場合であっても、年次有給休暇の請求が、本人の急病、事故、家族の病気の看護など就労を求めることが酷であるときには時季変更権の行使をしなかった事例が相当数あり、このような場合、被告は、管理職に対し、その本務に多少の支障が生ずる場合であっても、右請求に代わって教習事務に従事させるなど例外的に格段の努力をして、代替勤務者の確保をしたものであることは前判示のとおりであり、右の点に徴しても、被告の原告らに対する前判示の時季変更権の行使が、1判示のような通常の配慮すれば代替勤務者の(ママ)確保することが客観的に可能な状況であるのに行われたものとは認められず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告らの第五類型の各請求は、理由がない。

一〇  弁護士費用相当額の支払請求

被告が右賃金の支払を拒否した債務不履行の結果、原告らは、弁護士に依頼して本件訴訟の(ママ)提起し、弁護士費用の出費を余儀なくされたのであるから、被告は、右弁護士費用相当額の支払義務を負うべきである旨主張するが、右請求中、第六類型以外の賃金請求に係る請求については、被告が賃金支払義務を負わず、原告らの右請求はその前提を欠き、理由のないことが明らかである。

また、民法四一九条によれば、金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償の額は、法律に別段の定めがある場合を除き、約定又は法定の利率により、債権者は、その損害を証明する必要がないとされているが、その反面として、たとえそれ以上の損害が生じたことを立証しても、その賠償を請求することはできないものというべく、したがって、債権者は、金銭債務の不履行による損害賠償として、債務者に対し弁護士費用その他の取立費用を請求できないと解すべきであるので(最高裁昭和四五年(オ)第八五一号事件同四八年一〇月一一日第一小法廷判決・裁判集民事一一〇号二三一頁)、第六類型の賃金請求に係る弁護士費用相当額の支払請求も、理由がないものというべきである。

したがって、原告らの右請求は、いずれも理由がない。

一一  結語

以上によれば、原告らの請求は、主文の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないので、棄却する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 大竹たかし 裁判官 高木陽一)

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